〈5〉完璧主義者はミケランジェロだけでよい




「人生で一番後悔していることはなんですか」と六十代の貴婦人に訊ねました。

 いつか外国に行きたい、いつか華道もやってみたい、なんて思ってた。けど、就職して仕事して結婚して出産して育児もして、お金も時間も体力も余裕も小鳥みたいに消えていく。「いつかは来ない」と知った。外国語を学んでから、とか、お金に余裕を持ってから、では遅かったの。思ったその日その瞬間動いておけばよかった。どんなに不完全でも、不完全のまま動くしかなかったのよ。そう彼女は語ったのです。

 私にも心当たりがある。「事前完璧主義」に陥ると一歩も動けなくなるものです。

 ベストなタイミングは、永久に来ない。はいあなたの出番です、なんて調子の良いコールは滅多に来ない。必要なものは、現地調達するしかない。拾いながら走っていくしかない。扉を叩きに行くしかない。どうやら人生は、そういうもののようです。

 完璧主義にできることは限られている。「野蛮であれ」ということです。